私たちが守ります あなたの健康 一般社団法人 伊都医師会
10余年の実績を誇る地域医療連携システム「ゆめ病院」
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かかりつけ医の声−2

ゆめ病院構築と背景、変遷

 「ゆめ病院」は診療科目に関わらず1人の患者情報を複数の医療機関で共有できる点が最大の特徴である。 通常、高齢者は複数の疾患を抱えている。 例えば、白内障患者は糖尿病も併発している場合がある。 「ゆめ病院」では眼底画像から糖尿病性の網膜症が発症しているなど、データが異なる診療科目の医療機関同士でやりとりできる。

 また「ゆめ病院」は重複検査の防止効果もある。 上記の例では内科と眼科の両方で血糖を測定することになるが、同システムでは検査情報共有機能により一度の検査で済むため、患者負担の軽減が可能である。

 検査情報を入力すると自動でグラフが作成されるため、患者への説明もしやすい。 患者は他医療機関の利用を明かすことに抵抗があるため、患者が申告しなくても状態が把握できるというメリットがある。

 従来は、医療情報の共有に伴うセキュリティ対策や入力の手間、画面遷移などの問題が存在したが、補助金によりシステムが大幅に強化された。 今後は日医標準レセプトソフト「ORCA」と連携し、自動的に記録されるシステムに刷新していく期待を持つ。

 構築時は、閲覧可能な職種や項目について議論を重ねた。 名前で情報を管理するのは個人情報保護の観点から難しい。 患者に番号を付与したり、カルテ番号を活用するなど複数案を検討した。 現在は初診時に情報共有を望まない患者のみを除外する方針に切り替えた。 入力項目も議論を繰り返した。 情報が多すぎると医師側の負担や手間だけが増えることになる。


セキュリティ・個人情報

 「ゆめ病院」当初は医療情報のカード管理なども検討したが、紛失や多重発行などの恐れがあり地域医療連携では馴染みにくいと考えた。 現在はデータベースを参照する方針である。

 「ゆめ病院」では、患者が自分の情報にアクセスできない。 患者が医療情報にアクセスできると、自己判断で心配するなどの可能性がある。 医師は患者に問題なしと告げつつがんなどを疑う場合もあるため、確定前に情報を公開するのは難しい。

 例えば、医師が胃潰瘍を疑い、胃カメラ検査を検討した時、患者が自分の情報にアクセスできると、自己判断でがんを疑うなどの可能性も出てくる。


社会や行政について

 「ゆめ病院」では特定健診データがスムーズに入る点も特徴である。 特定健診制度は2年目に入ったが、データの蓄積や整理ができていない。 検査項目による患者予備群の統計や分布などはITの得意分野なので「ゆめ病院」を有効活用していく。

 国に提出したデータも活用状況が不明瞭である。 研究機関で分析している可能性もあるが、現場まで降りてきていないため、データの有効活用と公開を望む。 一方、「ゆめ病院」では入力データが簡単に抽出できるため、年齢分布による高脂血症や高血圧の受診者が分析できれば予防医療にも貢献できる。

ゆめ病院運営状況

 共有する情報は医師が判断している。 医師は調剤薬局や訪問看護ステーションの仕事内容を把握しているため、医師が必要な情報を取捨選択することで連携がスムーズなる。 医師の全診療行為を共有しても各職種に不要な情報を与えることになる。

 診療履歴等は非常に役立つ情報である。 医師はカルテ情報を基に、共有する必要があるデータのみを公開する。 日医標準レセプトソフト「ORCA」と連携し、全ての医療情報の一元化などが今後の課題である。

 使いやすさも重要な要素である。 紙カルテは1年分の情報を素早く確認できるが、電子カルテは何度もクリックする必要があり、一覧性に欠ける仕様が多い。 画面を統計的にカスタマイズできるなど、一覧性を増す工夫が必要である。

 「ゆめ病院」にはMRI・CT画像を共有する医療画像共有機能も搭載されており、参画医療機関はCT・MRIを所有する病院から画像情報を得ている。 当院はMRI・CTなどの画像診断装置を有しており、今後は画像提供の必要性も感じているため実現に向けて準備を進めている。

 画像に基づいたセカンドオピニオンなども考えられるが、手術の必要性など、治療方法における重要な所見は患者を直接診察する必要がある。 画像に基づくアドバイスなどの提供であれば問題はない。


在宅医療における活用

 医師は往診前に「ゆめ病院」に接続し、参画医療機関や訪問看護ステーション、調剤薬局による入力の有無を確認する。 往診後は紙のカルテに記入し、診療内容や注意事項のポイントを「ゆめ病院」に入力する。

 当初の「ゆめ病院」は医師のみ連携していたが最新版では訪問看護ステーション、調剤薬局の入力情報が閲覧できる。 従来の連携はFAXなどで行われていたが、宛名の記入など手間がかかる点が課題であった。

 一方、「ゆめ病院」は共有したい部分を入力するだけで良い。 在宅療養者に変化がないというデータは重要だが、FAXで送ることはない。 「ゆめ病院」では、コメントを入れるだけで訪問看護師などが確認し、参考にできる。

 逆に看護師の訪問時には血圧、SpO2、体温などのバイタルデータの他、自由文のコメントが入力されるため、診療において非常に参考になる。


予防医療の推進

 がん検診、乳がん検診などの様々な健診を一元化し、行政が実施するべきである。 現在は裕福層や特定の選ばれた人のみが厚い健診を受けている。 価格は調整が必要と思われるが、国として予防医学を推進するのであれば、予防医学にコストを支払う必要がある。

 何かしらの症状が出てからでは遅い。 地方は医療にかかる機会が少なく、時間をかけて来院しなければならない。 よって、今後は地方からがん検診率などを上げていく必要がある。 行政主体で健診を活性化することが望ましい。

インターフェースの改善

 在宅療養者は寝たきり、がんなど様々であるため、必要な機能は患者の疾患・状態により異なる。 よって、必要に応じてカスタマイズできる柔軟性が求められる。 現在の「ゆめ病院」はメモ形式で記入できる点が優れる。

 現在の電子カルテは血圧や体温などで枠が設けられ、強制的に入力を促すインターフェースが散見される。 しかし診療に不要な項目を入力しても意味は無い。 メモ形式はカルテと同様の感覚で記述でき、見るべきポイントが一目で分かるインターフェースである。
 カルテから共有情報を医師が選択できる点も重要である。 カルテには医療情報の他、患者との会話に活用する個人情報も記述されている。 しかし、それらを共有する必要はない。 アレルギーなど共有が必要な情報を医師側で判断できることが望ましい。


通知機能の改善

 入力情報を携帯端末に通知するシステムが必要である。 現在はPCで確認する必要がある。 他者が入力や閲覧などの確認ができると良い。 急変時はFAXなどを活用しているが、プッシュ情報を送信できることが望ましい。

 在宅療養者は安定しているケースが多いが、急変時の対応に役立つと思われる。 送信された情報に基づき看護師に指示したり、バイタル情報を基に処置が判断できる。 紙ベースのやりとりでも良いが、記録が残れば経過を見返すこともできる。 従来は自分のカルテのみが判断材料であったが、訪問看護ステーションや調剤薬局の情報や考え方を参考にできるのは良い。


心電図と救急対応

 有望な追加機能としては心電図の送信が挙げられる。 訪問看護ステーションのポータブル心電計の情報が送信できれば遠隔医療が実現する。 診療報酬などの課題も存在するが、訪問看護と医師との連携に役立つとみられる。

 現在は救急車内から心電図を伝送する試みもあるが、同様の環境が「ゆめ病院」で構築できるとみられる。 患者が搬送された際、IDで紐づけられた情報を参照する。 これは現在の在宅医療で最も求められる要素である。

 在宅医療で急変したときが診療時間中とは限らない。 在宅療養支援診療所は医師2名と24時間体制の訪問看護ステーションで患者を診ているが、急変時は看護師が駆けつけて状況を確認し、医師が往診かと搬送かを判断する。 その際、過去の診療履歴や服用状況などが共有されていれば参考になる。

 救急用のシステムは構築中だが、服薬状況はメモ形式の中に埋もれる可能性があるため別枠を設けるのが良く、処方薬一覧などの開発が求められる。

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