かかりつけ医の声−1 | ||
ゆめ病院構築と背景、変遷医薬分業により、調剤薬局には服薬指導が発生した。しかし、現在の調剤薬局は患者さんを知らずに処方箋だけで服薬指導をしている現状がある。患者さん情報を医療側から提供した上で服薬指導をしなければ、診療費をシェアした意味がない。よって、真の医薬分業の実現には情報の共有が前提になる。 医療は医師のみで成立しないため、医療現場に支援者が入ることが大事である。現場で求められたことが制度化された訪問看護の採用は、近年の医療制度改革で優れた制度である。「ゆめ病院」が地域医療連携の核になれば、訪問看護と同様にモデルケースとして発展する可能性がある。 現在のクリティカルパスはリハビリテーションにおける作業工程や受け渡し先となる病院連携を縦つなぎにした情報提供が多い。 診療計画は重要だが、従来の関係種で行われてきた情報と変わらない場合もある。 そこで「ゆめ病院」で実施している情報共有が必要である。糖尿病の逆紹介では、患者さんを3〜6ヶ月後に再検査の結果が見られる管理体制に置き、状態が把握できることが重要である。 「ゆめ病院」は紹介後の経過も見られるため、紹介して終わりではない。紹介患者さんを後からトレースできるため、本当の地域医療連携を実現する連携体制が構築できる。現場では以前から求められていた情報だが、近年まで実現していなかった。「ゆめ病院」型の体制を構築することで、医療提供側と患者さん側の相互にメリットが見込めるようになる。 社会や医療のIT化について「ゆめ病院」がブラッシュアップされたのは、補助金を受けたことが大きい。以前はセキュリティ問題や画面遷移にかかる時間など、システム自体の課題が多く存在し、強く打ち出せなかったが、現在はシステムも大幅に改善された。 思想については、NPO法人 和歌山県医療情報ネットワーク協議会(wamina)の理事長を務める和歌山県立医科大学 医学医療情報研究部 入江真行先生が、「ゆめ病院」の思想に同調し、拡大にも助力している。また、同大医学部の羽野卓三先生は高血圧学会で発表も行った。 セキュリティ「ゆめ病院」では医療情報の公開や連携、共有をローコストで実現してきたが、医療情報に対するセキュリティを問われる場面もあった。「ゆめ病院」は厚生労働省のガイドラインに沿った「IPsec-IKE VPN」でセキュリティも保たれている。 |
訪問看護ステーションや調剤薬局との連携「ゆめ病院」には、予防接種や訪問看護ステーションの情報も共有される。今後は携帯電話などに通知できれば、より親密な三者連携が進む。入力すると即座に医師に通知され、通知をトリガーにしてPCを閲覧するだけでも大幅な効率化が見込まれる。 地域連携で調剤薬局の指導がより意味を持つ。従来は薬を渡すだけで医療費が増加するのみであった。しかし、三者連携で調剤薬局の役割も明確化する。 連携する各機関・施設が情報を持ち、提案なども記述することで全連携機関/施設にメリットが生まれる。呼吸機能管理の患者さんに対し、薬局も訪問看護ステーションも酸素濃度などを測定し、状態を記入するなどの連携も考えられる。 「ゆめ病院」のメモ形式の記入欄は、相手に必要な情報のみを記述する、質の高いものになる。病院の電子カルテを開示されても、必要のない情報を大量に見ることになるため、閲覧者には負担である。 画像の共有も可能である。従来は表示に時間がかかった糖尿病患者さんの眼底画像が「ゆめ病院」では瞬時に見られる。また、画像の変化についてのポイントを眼科医が記入してくれるため、診療の参考にもなる。 在宅医療/往診在宅の往診時には、事前に診療情報を確認し、往診後は自院で入力する。外出先での閲覧なども考えられるが、現在は「ゆめ病院」の課題を改善することに注力していく方針である。 将来は外出先でiPhoneなどのモバイルデバイスを活用した閲覧が実現できると考えられる。特にタッチパネルは使いやすく、必須の機能である。現在の「ゆめ病院」に満足せず、さらに使いやすいシステムを目指す。 今後改善・強化したい点現在の課題は患者さんのモチベーションを維持・向上させるアプローチである。治療に専念し、取り組ませるのは難しい。例えば生活習慣病である糖尿病患者さんは自制が効きにくい性格が多く、医師の言うことも聞きにくい。糖尿病教育入院などで一時的に改善しても、再度悪化する傾向がある。 医療は医師と患者さんのみで解決しないため、治療の舞台に多くの支援者を巻き込む必要がある。「ゆめ病院」では、紹介後も医師や病院の機能を患者さんが利用できる体制を整える方針である。 今後は行政の職員や保健師が「ゆめ病院」に参加することで、糖尿病教室など、病院ではできない部分を補完でき、地域の予防医療が大きく改善する可能性がある。 特定保健指導が開始されたことで保健師が不足し、糖尿病教室は減少しつつある。よって、更に多くの支援者を治療の舞台に押し上げるアプローチが必要である。「ゆめ病院」に参画する業種も増加させ、地域に関わる様々な支援者が、閲覧可能な情報などを切り分けた上で参加できる基盤を構築する。まずは「ゆめ病院」の会員に価値を認めてもらい、実績を積み上げていく必要がある。 |
患者さんの反応現在は患者さんに蓄積データを見せながら説明し、グラフを印刷して渡しているが、非常に反応が良い。改善状況が可視化されるとモチベーションが高まるため、患者さんのメリットにもなる。自宅で閲覧するより、医師から渡す方が説得力もある。 訪問看護ステーションや調剤薬局の反応訪問看護師も薬剤師も反応は良好である。 医療IT全般に関する意見や働きかけ行政には現場を見て、可能性に対する率直な評価を求める。行政視点からの意見で可能性や修正点が浮かび上がることに期待している。 「ゆめ病院」は実際に稼働しているシステムなので説得力がある。同モデルを他医療機関や地域、全国へ展開することもできる。「ゆめ病院」の企画理由のひとつには、開業医が論文やペーパーが出せる医療環境の構築もある。 大学病院ではなく、地域医療の現場からの情報発信である。「高血圧の治療が開業医レベルで高圧目標に達しているか」「糖尿病の合併症が「ゆめ病院」システムの活用で減少したか」などを地方開業医が実証でき、地域医療の改善に貢献できるシステムを意識し、構築した。 論文が少ない地域医療の体系改善も必要である。「ゆめ病院」に医療情報を蓄積することで定量調査も可能になる。今後、高齢者が増加することで主役は地域医療になるとみられるため、「ゆめ病院」システムを有効活用することで、最終的には地域医療のさらなる発展につながることが望ましい。 目的の達成には参加者の増加が必須である。 患者さんの萎えていく気持ちを役所も含め、地域で子供を育てるように患者さんを地域で支える基盤づくりが必要である。診療科目で分かれずに、患者さんを中心として、全てがつながる体制の構築が本来の医療連携の姿である。 看取られた患者状況/サマリーの保存も重要である。がん発見の前にあらわれた症状など、早期発見につながる手段や健診の有無などのコメントも保存する。 最低限の検査の結果や所見を蓄積すると、類似の事例で役立ったり、厚生統計に活用できたり、一見必要なさそうなデータが論文につながる可能性がある。 医療は現在で終わらないため、次の世代へのバトンタッチを意識し改善していく。 EHR現在EHRが盛んに叫ばれているが、定義が不明瞭である。「ゆめ病院」は使いやすいEHRと言えるが、入力の手間をさらに省くため、将来はORCA情報が自動入力されるところまで進化させることが目標である。 EHRは大企業が大規模電子カルテを構築し地方に下げ渡すようなモデルになる可能性がある一方で、「ゆめ病院」がモデルになり、EHRのベースとして全国に拡大するシナリオも描ける。医療従事者にとっては、現場から築きあげられた「ゆめ病院」ベースのシステムの方が使いやすいと考えられる。 |